登山を始めたくなる
ふと登山を始めてみたくなった。
きっかけは、瀬畑雄三さんの源流テンカラ釣りの知恵という本だった。
私は一年前からフライフィッシングを始めていたのだが、同じく毛鉤を使うテンカラも興味があり、この本を買って読んでみたのだった。
本の中の「山渓有情」という言葉が心に沁みる。
最近、魚がかわいそうになり、釣り場に足が向かなくなっていた。
その心情を的確に表してくれる言葉だった。
それはともかく、本の中には、山を越えて渓流に降り立つルートが書いてあった。
私の地元、新潟のルートもいくつか載っている。
山を越えて人気のない渓流に降り立ち、野営しながらイワナを釣る。
何と楽しそうな響きだろうか。
釣り自体にはあまり足が向かなくなっていたが、山の中でテントを張ったり、炊事をするのは面白そうだ。
唯一の問題は、私に体力がないことだった。
学生時代は、毎日の通学で山登りをしていたので、それなりに体力はあった。
その後10年近く、デスクワークの毎日だったので、体力の貯金が残っているか分からない。
重いテントや野営の道具を担いで、山を越えられるだろうか。
たぶん無理そうだ。
それなら、まずは重い荷物を背負って山登りから始めてみるのはどうだろう。
様子を見て問題なく山を越えられそうになったら、山の向こうの渓流に降り立つのだ。
よし、そうしよう。
まずは山登りから始めてみよう。
そういうわけで、山登りを始めることにしたのだった。
大石ダムの朳差岳登山道へ
2022年の6月19日。
いろいろ検討した末、モンベルで45Lザックを購入し、地形図・食料・水・野営道具などを詰め込んで旅立つ。
目指す場所は、以前に訪れた大石ダムの奥に登山道がある、朳差岳(えぶりさしだけ)だ。
最初に朳差岳という山名を目にした時、独特な名前だと思った。
朳というのは農具の名前で、まだ雪の残る時期に、山腹の残雪が朳をかついだ人の姿に見えることから、そう名付けられたらしい。
なぜ最初にここを選んだかといえば、先程紹介した「源流テンカラ釣りの知恵」という本に、朳差岳の山裾を流れる東俣川が載っていたからだ。
上の地図の、梅花皮荘の辺りから西の山を越えると、東俣川の源流部に降り立てるらしい。
その東俣川の西にそびえるのが、朳差岳だ。
いずれ東俣川の源流部に降り立ってみたいと思っていたのだが、まずは朳差岳に登ってみて、そこから東俣川を眺めてみたいと思ったのだ。
朳差岳を調べてみると、山頂までの上りは7時間半ぐらいかかるらしい。
山頂の小屋に泊まり、2日がかりで上り下りする登山者もいるようだ。
体力が必要で、登山道に水場もなく、当然山のグレードも高い。
全くの初心者が目指せる場所ではないと思うし、しかもその初心者は、仕事で日曜日しか時間が取れないときている。
とりあえず今回は、行けるところまで行ってみて、途中で引き返ことにしよう。
大石ダムから東俣大橋へ
車で大石ダムの東俣彫刻公園に向かう。
これは以前撮った写真で、この公園が車停めとなっている。
まだここは登山道ではなく、公園から約8kmの林道があり、その終点から登山道が始まる。
前回は途中の東俣大橋まで行ってみたのだった。
今回は林道を走るためのロードバイクを用意してある。
ザックを担いで自転車に乗り、林道を進み始めた。
出発した時刻は4:45ぐらい。
いやきつい...
出発して数分、最初の坂道ですでに息切れしている。
長年の運動不足を痛感する。
道はガタガタでアップダウンも激しい。
重いザックを背負っているので、なおキツイ。
やっとのことで東俣大橋に到着。
ここまで15分ほど。今は5:00ぐらいだ。
東俣大橋から朳差岳登山道へ
大橋から東俣川の上流を覗く。
しばらく進むと工事現場があった。
少しずつ水分補給をしながら進む。
何度も自転車を漕ぐ足が止まる。
帰りたいと思い始める。
道の脇に雪塊が。
6月も半ばだというのに、まだ雪が残っているのか。
キツイ。写真を撮っている余裕が無い。
上り坂が多く、そのたびに自転車を押して歩く。
終点まで何度も自転車を乗り降りした。
途中で道の舗装がなくなり、地面は土が露出している。
まだ林道は続くのか。体中が痛い。
ようやっとのことで一号橋に到着した。
この時点で体中ガタガタだった。
朳差岳登山口から月夜平へ
今の時間は5:50。
林道を超えるのに1時間ぐらいかかった計算だ。
ネットで山行記録を見ていると、林道で2時間半ぐらいかかっている記録が多い。
徒歩だとそのぐらいかかるのだろう。
看板がある。
こうして見ると、大石ダムから林道終点までが一番距離があるようだ。
そこを超えられたので、少し自信が付いた。
一号橋を渡る。
帰りに河川敷に降りてみよう。
橋を渡ると、明らかに道の様子が変わった。
急な上り坂を交えた細い道が続く。
途中で平らなブナ林になった。
この辺りが月夜平だろうか。
月夜平の先へ
大きな木が倒れている。苔むし、キノコが生えているのが風情がある。
切断された倒木も。
林道に比べれば、楽な道だと思いながらのんきに歩いていると、急登の坂道に出くわした。
ここから先がきつかった。
木の根を足掛かりにして進む。
十数キロのザックを担ぎながらなので、後ろに引っ張られそうになる。
肩は大丈夫だが、腰回りが痛い。足も笑い出してきた。
一歩一歩の足を上げる動作がキツイ。
登るのに集中しなければならず、写真を撮る余裕が無い。
崖際を歩くような場所もあり、結構怖い。
ようやく急登が終わり、少し平らな場所に出る。
それでも両側は崖なので怖い。
木の根元で一休み。
現在6:17だ。
一号橋から30分ほど進んだようだ。
道の先を見ると、急な下り坂になっている。
ここを降りると二号橋があるのだろうか。
限界を感じて引き返す
今の状態では、とても山頂どころではない。
引き返すことも考えると、ここらが潮時ではないだろうか。
来た道を引き返すことに。
今まで登ってきた道を引き返すので、道は下りになる。
下りは滑りそうで怖い。
月夜平に戻ってきた。
開けたスペースがあり、ここでしばらく腰を下ろして休憩する。
ブナの森は良い。
こうして佇んでいると、自分も自然の一部になったような気がする。
帰りの道では、来るときに気付かなかった倒木を見つけた。
写真では分かりにくいが、かなり大きな倒木だ。
対岸まで届いている。
東俣川に降りる
一号橋まで戻ってきた。
川端まで降りてみよう。
川のほとりに来てみると、冷気が漂っている。
上流にはまだ雪渓が残っているだろうか。
川の水はとても冷たい。
手を入れていると手が痛くなってくる。
水をすくって飲んでみたが、冷たく、サッパリとして美味しい。
しばらく川で時間を潰し、林道を戻った。
駐車場に引き返す
林道を引き返していく。
これはアカマツだろうか。
来るときには気に留めなかった物が、帰りは余裕が出て目に入るようになる。
苔の生えた石の間を小沢が流れる。
林道を走りきり、東俣彫刻公園に戻ってきた。
シャワーで体を洗ってサッパリし、露天風呂へ。
疲れがお湯に溶けていく感じがする。
カヤックに乗った後もそうだが、運動後の温泉は何と良い物だろうか。
足が震えるぐらい自転車を漕ぎ、歩いたというのに、不思議と筋肉痛にはならなかった。
最初の林道で何度も立ち止まり、休みながら進んでいた時は、こんな調子で山頂まで行けるのだろうかと思っていた。
休み休み行けば、意外とどこまでへも行けそうな気がした。
だが、まだ明らかに体力不足だ。
登れそうな山を色々と登ってみて、体力と技術を身に付けたら、この山に戻ってくることにしよう。