霧に包まれた八幡平へ
東北一人旅もいよいよ5日目の早朝。鹿角(かづの)市を出発し、八幡平(はちまんたい)へと車を走らせる。
鹿角から南へ延びる国道341号を進み、八幡平方面へ向かう県道23号に入った。
この県道23号は山間を縫うようにカーブが多く、直線距離のわりに目的地までかなり時間がかかるルートだ。
今日の午前中は、ここから八幡平の山頂を目指す予定である。
八幡平のあたりは、今から十数年も前に一度だけ車で通ったことがあった。
その時はただ通過しただけだったのだが、車窓から見た雄大な景色がとても綺麗だったことをよく覚えている。何となくその時の景色が強く印象に残り、いつかまたゆっくりと訪れてみたいとずっと願っていた。
今日、ようやくその念願が叶う。
……と思ったのだが、いざ登ってみると今朝の八幡平周辺はこんな有様だった。

辺り一面、分厚い霧で真っ白だ。何も見えやしない。

おまけに、外に出ると震えるほど寒い。
駐車場の看板に温度計が設置してあったので見てみると、なんと「7℃」と表示されていた。
山頂からの素晴らしい景色を楽しみにしていたのだが、山の天気ばかりは仕方がない。
思えば、北海道の知床を旅した時も、乗船した遊覧船が霧のために途中で引き返すことになり、心残りを作ってしまった。
だが、旅に心残りを作っておけば、それは「またそこを訪れるための理由」になる。
八幡平の山頂には、いずれまた天気の良い日にリベンジしに来ることにしよう。
私は展望台から早々に引き返すことに決めた。
八幡平ビジターセンターと大沼の散策
山頂を諦めて山を下る途中、来る時に目に入った「八幡平ビジターセンター」に寄ってみることにした。
ビジターセンターに到着した。

まだ時間が早いため、センター自体は開館していない。
しかし、建物の周辺に自然を散策できる遊歩道があるようなので、少し歩いて見て回ってみよう。
まずはセンターの正面に広がる「大沼」へと向かう。

大沼を一周。紅葉とキノコを探して
沼の周辺の木々はうっすらと色づいており、紅葉の最盛期まであともう少しといったところだろうか。

沼の岸辺に降りると、木道が敷かれた散策路が続いている。

どうやらこの木道で沼の周りをぐるりと一周できるようだ。沼に向かって右回りに歩いてみることにした。

ふと足元を見ると、湿った倒木にキノコが生えているのを見つけた。

つるんとした傘の形と色合いからして、これはナメコではなかろうか。

青空の広がる晴れた日も素晴らしいが、今日のようにどんよりとした曇り空で、うっすらと霧がかかっているような天候の時も、しっとりとした秋の寂寥感があって趣深い。

木道が途切れ、階段の道に出た。




スタート地点のビジターセンターから見て、ちょうど沼の反対側の辺りまで歩いて来たようだ。
水面越しに、対岸に小さくビジターセンターの建物が見える。




遠くの水辺に、一羽の大きな鳥が佇んでいた。サギの仲間だろうか。

コケやキノコを観察
大きな景色だけでなく、足元の細部に目を凝らすと、また色々な面白いものが見えてくる。


真っ白なキノコを見つけた。いかにも猛毒がありそうな危険な見た目をしている。


こちらのキノコは肉厚で、バター醤油で炒めたらとても美味そうだ。

実際の所は素人には全く分からないが、往々にしてこういう「美味しそうな見た目」のキノコこそが、実は一番危なかったりするのだ。
さらに先へ進む。
沼の周囲の、だいたい4分の3ぐらいの距離まで歩いて来た。


沼のすぐそばに、背の低い草が広がる湿原があった。



のんびりと大沼をぐるりと一回りし、スタート地点のビジターセンターへと戻ってきた。
ボコボコと湧き出す「泥火山」の見学
ビジターセンターに戻ったあたりで、ポツポツと冷たい雨が降り出した。
案内板を見ると、ビジターセンターの裏手に「泥火山(でいかざん)」と呼ばれる場所があるらしい。

せっかくなので、そこも少し見に行ってみよう。
傘を差してしばらく進んでいくと、ツンと鼻を突く独特の臭いとともに、「ボコッ、ボコッ」という重低音が聞こえてきた。

この強烈な臭いも、泥が沸き立つ音も、夏の北海道を旅した時に何度も体験したものだ。なんだかとても懐かしい気分になる。

ボコボコと鳴っているのは、地中の奥深くから火山性のガスが絶え間なく噴き出しているからだ。

辺りに立ち込める独特な臭いの正体は、もちろん硫黄の匂いである。

北海道の屈斜路湖の近くにある硫黄山や、阿寒湖のボッケなどで、何度もこの強い硫黄の臭いを嗅いできたのだった。

足元の泥だまりの所々で、ボコッ、ボコッと灰色の泡が立っては弾けている。

泥火山とは、地球という巨大な生命体の活動が(ごく表層の部分でしかないけれども)、我々人間の手軽な目の高さで観察できる、非常に面白くて貴重な場所なのだ。