大雨のむかわ町と、道の駅 ウトナイ湖のホッキカレー
萱野茂 二風谷アイヌ資料館を出て平取町を後にし、再び海岸沿いの国道235号へと戻る。
激しい雨が降りしきる中、車は水飛沫を上げながらさらに西へと進んでいく。
「道の駅 むかわ四季の館」に到着した。

少し休憩を兼ねて館内で買い物をし、外へ出ようとすると、雨足はさらに強まり「バケツをひっくり返したような」という形容がぴったりな大雨になっていた。
びしょ濡れになりながら、小走りで車へと逃げ込む。
この大雨の中を闇雲に走り続けるのは危険だと判断し、とりあえず苫小牧市のすぐ北にある「道の駅 ウトナイ湖」まで進んで、そこで様子を見ることにした。

ちょうどお昼時だ。ここで昼食にしよう。
冷たい雨に打たれて体が冷えていたので、気分的には「こってりした熱々の味噌ラーメン」をすすりたいところだった。
しかし、道の駅の建物に入った瞬間、入り口にデカデカと掲げられた「ホッキカレー」の看板が目に飛び込んできた。
苫小牧といえばホッキ貝の水揚げ日本一の町である。それを見た瞬間、私の脳内メニューは味噌ラーメンからホッキカレーへと瞬時に切り替わった。

この旅で「海鮮系のカレー」を食べるのは、ずっと東の野付半島近く、「道の駅 おだいとう」で絶品のホタテスープカレーを食べて以来だ。

スパイスの効いたカレールーと、ホッキ貝のシコシコとした食感、そして噛むほどに溢れ出す海の旨味。
「カレーと貝の組み合わせは、なぜこうも劇的に合うのだろうか」と、一人感嘆しながらスプーンを動かした。

雨の十三日目を振り返る
食後も、窓の外では雨がしとしとと降り続いている。

この天気では景色を楽しむこともできないため、今日の観光は思い切ってここまでにしようと決めた。
雨のドライブは視界が悪くて恨めしいが、よくよく考えれば、北海道に上陸してから今日までの2週間近く、天候に恵まれ続けてきたことの方が奇跡的だったのだ。
温かいコーヒーを飲みながら、今日一日のルートを思い返す。
朝一番に三石を出発し、馬の牧場が連なる新冠を通り過ぎて、大雨の二風谷へと向かった。


そして、ずっと訪れたかった「平取町立二風谷アイヌ文化博物館」と「萱野茂 二風谷アイヌ資料館」をじっくりと見学した。


北海道を一周するにあたり、アイヌ文化の核心に触れられるこれらの博物館は、私にとって絶対に外せない場所だった。
雨降って地固まるではないが、静かな雨音の中で深く文化と思索に浸れたのは、結果的にとても良い時間になったと思う。
実は明日も、少し別の角度からアイヌに関係する歴史的な場所(白老方面)を訪れる予定にしている。
ウトナイ湖畔での、野生の白鳥との遭遇
しばらく休んでいると雨足が少し弱まってきたので、道の駅のすぐ裏手に広がっている「ウトナイ湖」の湖畔まで歩いて行ってみることにした。
ウトナイ湖は水鳥の楽園として知られ、ラムサール条約にも登録されている自然豊かな湖だ。

湖畔の湿地帯に近付いていくと、葦の茂みの傍らに、真っ白な白鳥のオブジェのようなものが置かれているのを見つけた。

てっきり公園の置き物だと思って無警戒に近寄っていくと……。
突然、そのオブジェが首を動かし、ゆっくりと歩き出したではないか。

置物などではない、正真正銘の「本物の野生の白鳥」だった。

彫像のようにピタリと動かなかったのは、足音を立てて近づいてくる私を警戒して様子を伺っていたのだろう。
白鳥といえば、私は地元新潟にある有名な飛来地「瓢湖(ひょうこ)」で、毎年冬になるたびに嫌というほど飽きるほど見慣れている。

だから「珍しい鳥を見つけた!」という新鮮な驚きこそないのだが、それでもこうして旅先の静かな自然の中で大型の野生動物とばったり出くわすのは、純粋にワクワクして楽しいものだ。
実際の白鳥との距離感は、この写真の通り数メートルほどしかない。

足元にカメラを向け、立派な水かきの部分をアップで撮ってみた。

思えば、新潟の瓢湖で見る白鳥たちはほとんどが水面にプカプカと浮かんでいる状態だったため、こうして陸地で白鳥の「水かき」のディテールをまじまじと観察したのは初めてかもしれない。
私を気にしつつも、白鳥は首を伸ばして器用に草を食んだり、水たまりの水を飲んだりして過ごしている。

私がさらに一歩近付いていくと、「クゥ、クゥ」と小さく警戒の鳴き声を上げながら、トコトコと歩いて少しずつ遠ざかろうとする。

脅かしては可哀想なので、一定の距離を保ったまましゃがみ込み、小声で「驚かせてごめんよ」と話しかけてみる。
白鳥はこちらにチラリと興味を示したような素振りを見せたものの、すぐにまた地面の草をついばむ食事作業へと戻っていった。
見慣れたイオンと、通信制限の孤独
道の駅でのんびり過ごした後、車で苫小牧の市街地へと移動した。
ガソリンスタンドで燃料を満タンに補給し、途中の郵便局で書き溜めていたポストカードを投函する。
車を走らせていると、ロードサイドに巨大な「イオンモール」の看板を発見したので、買い出しも兼ねて何となく立ち寄ってみた。

イオンは日本中、どこへ行っても同じ顔をして建っている。大自然の中を孤独に走り続ける非日常の旅において、この「どこにでもある見慣れた風景」というのは、強烈な安心感を与えてくれるものだ。
広大なスーパーの売り場を歩き回り、お土産になりそうなご当地調味料を探す。
自宅で北海道の味を再現できそうな「昆布だしの醤油」と「十勝豚丼のタレ」をカゴに入れた。
今夜の夕食用の惣菜やお弁当も、すべてこのイオンで調達を済ませた。

車に戻ってスマホの画面を開くと、まったく通信ができない「ただの黒い板」と化してしまっていた。
電波が悪いわけではない。データ通信の容量制限に引っかかってしまったのだ。
思えば8日前、道北の猿払村にいた時点で「通信容量を超過しそうです」という警告メッセージが出ていた。それ以来、動画を見ないようにするなど細々と節約して使っていたのだが、ついに昨日、完全に通信制限のロックがかかってしまったらしい。
画像の読み込みすらままならない激遅の通信速度の中、数分待ってようやく開いた天気予報アプリを見ると、明日の道央エリアの天気は悪くなさそうだ。
明日はここ苫小牧から、白老を経て室蘭の地球岬の辺りまで足を伸ばす予定でいる。
車中泊のベッドに横になり、暗い車内で天井を見上げる。
旅の序盤、札幌や旭川の都会を走っていた頃のことが無性に懐かしく思い出された。あの頃は、片側三車線の広い道路と猛スピードで流れる大量の車列に怯え、ナビの道案内も分からないままに必死でハンドルを握っていた。
広すぎる大地の中で「ひどく孤独だ」と感じたものだが、2週間近くが経過した今はすっかり、北海道の規格外の道幅や、町と町との途方もない距離感にも慣れきっている自分がいる。
ようやくこの北の大地のルールや、一人旅のゆったりとした時間の流れに「適応」できたという実感が湧いてきた。
だからこそ、あとわずか二日ほどでこの北海道を離れ、フェリーに乗って日常へと帰らなければならない事実が、言葉にできないほど残念で寂しかった。
ナビの地図を縮小してみると、ここ苫小牧からすぐ目と鼻の先には千歳があり、そのさらに先には、旅の出発点である札幌の街が広がっている。
北海道をぐるりと一周する、長かったこの一人旅も、本当にもうすぐ終わりを迎えようとしている。