稚内から宗谷へ
稚内駅を出る。
宗谷岬へ向かう前に、稚内のコインランドリーに立ち寄らねば。
3日前に旭川を出てから洗濯をしていなかった。
日中が暑く、行動しているとすぐに汗をかく。
洗濯物があっという間に溜まってしまう。
洗濯を済ませ、いよいよ宗谷へ向かう。
稚内から宗谷までの道は特に景観が良い。
道の左右が開けており、岬もトンネルもなく、はるか彼方を走って来る対向車が見える。
内地の方に目をやれば、なだらかな丘陵地帯が広がっている。
小倉霊現大僧正の記念碑
宗谷に向かう途中、小倉霊現大僧正の、御巡錫記念碑があった。
「御巡錫」という単語についてだが、「錫」というのは金属のスズのことで、ここでは錫杖のことをいう。
錫杖をついて各地を行脚することを、御巡錫というようだ。
小倉霊現大僧正という人物の名前を初めて見たので、少し調べてみた。
念法眞教という、仏教系宗教の開祖だそうだ。
念法眞教の公式サイトで教えなどを見てみると、特に日常生活を大切にすることを教義としている宗教のよう。
在家でも実践しやすい教えだ。
来年の2025年に、立教100周年を迎えるそう。
公式サイトに載っている、小倉霊現大僧正の活動年表に、
昭48.10.4 開祖、北海道ご親教のおり、日本最北の地稚内に向かい、稚内公園に建つ「氷雪の門」「九人の乙女の碑」に参拝し、追悼と平和の祈りを捧げ、日本の平和と安全を祈念。
とある。
北海道に来られたのは、今から51年前のことだ。
このことを記念して碑が建立されたのだろう。
ぽつぽつと雨が降り出してきた。
鷺のような鳥が、長い脚で海面に立っていた。
不思議な光景だ。
宗谷岬とモニュメント
御巡錫碑からさらに道を進み、ついに北海道最北端の地、宗谷岬に到着した。
着いた。
小樽からここまで5日かかった。
長かった。
感慨も一入だ。
最北端の海岸。
海水をなめてみたが、普通の海水の味だった。
間宮林蔵の銅像だ。
幕末の探検家、間宮林蔵は、樺太が島であることを見出した人物として有名である。
日本地図を作製した伊能忠敬から測量の技術を学び、北海道の北方を測量・地図の作成を行った。
樺太からユーラシア大陸までの海峡は、間宮海峡と名付けられている。
日本最北端の地のモニュメント
日本最北端の地のモニュメントだ。
ここで中国の人に声をかけられた。
「~~ピクチャー」と言いながらスマホを見せるので、写真を撮ってほしいのだろう。
間宮林蔵の銅像や、モニュメントを背景にして記念写真を撮った。
北海道に来て5日目、初めて人と話をした気がする。
店のレジや観光地で、業務的なやりとりをすることはあったが、いくばくかでも感情を交えたやりとりは、本当に久しぶりだった。
自分の性格的にも、北海道を旅する中で、人と話をすることはあまりないだろうと思っていた。
旭川の道の駅で、道外から来た人たちが集まって話をしていたのだが、人付き合いが面倒で加わらなかったぐらいだ。
それにしても、5日目にして最北端の宗谷岬で、それも中国の人と英語で会話をするのが、北海道に来て初めてのちゃんとした会話だったというのが面白かった。
英会話が得意なわけではないので、片言で単語を並べるだけだったのだが。
宗谷周辺を散策
岬の周囲には、土産物屋や飲食店が多い。
展望台もあるようだったが、雨が本格的に降り始めたので寄らないことにした。
土産物屋だけ巡り、次の目的地に向かうことにしよう。
天候も相まって、海は日本最北端の地にピッタリの雰囲気を醸し出している。
最北端の地の自動販売機。
バスで団体の観光客が来ていた。
ツアーは自分で運転しなくてよいから楽だ。
その代わり、行きたいところに自由に行けないというデメリットもある。
自分で運転ができない歳になったら、ツアーで各地を巡るのも楽しいかもしれない。
お土産屋は結構広く、最北端の地ならではのものが売っている。
最北端に到達した証明書や、宗谷岬のストラップ、お菓子類も豊富にある。
変わったものだと、他の土産物屋でも見かけたが、封筒に北海道のつまみが入っていて、それをそのまま郵便で送ることができるというお土産もあった。
購入して、最北端の郵便局で送るのも乙だろう。
証明書といくつかのストラップ、タオル、犬のおやつ、ポストカードなどを購入した。
中々来られない場所なので、ついたくさん買ってしまいたくなる。
最北端の神社。
さて、先へ進もう。
最北端のガソリンスタンドで給油をし、証明書をもらった。
道の駅さるふつ公園へ
宗谷を出て、さらに海岸沿いを進む。
そういえば、もうここはオホーツク海沿岸なのだ。
北海道の道路を走っていると、自由に利用できる駐車場をしばしば見かける。
中にはカメラマークの標識が立っている駐車場もあり、そういったところからは、北海道らしい雄大な景色を望むことができるのだ。
景色に見とれながら車を走らせていると、道の駅さるふつ公園に着いた。
稚内のあたりから、明らかに気温が低く、風が冷たくなっていた。
今はたぶん10℃台だ。
寒い、というよりは涼しいぐらいなので、ずっとこのぐらいの気温であってくれると嬉しい。
そういえば、数日前に訪れた占冠の道の駅で、30℃なんていう表示を見たばかりだった。
今日の朝、幌延町に行った時もけっこう暑かった。
同じ北海道でも、場所によって気候・気温が全然違う。
五日目の回想
腹が減っていたのだが、まずは風呂に入りたかった。
道の駅に併設の、さるふつ憩いの湯へ向かう。
ここはたぶん温泉ではないが、良い湯だ。
北海道に来てから毎日温泉に入っていた。
久しぶりに、無色透明・無味無臭の湯も良いものだ。
湯につかりながら、今日通ってきた道を思い出す。
天塩から幌延町のトナカイ観光牧場に行き、生まれて初めてトナカイを見た。
幌延ビジターセンターでは長沼周辺を歩いた。
稚内市街からノシャップ岬と来て、水族館や科学館も訪れた。
稚内市街を出て、日本最北端の地・宗谷岬にたどり着いたのだった。
そしてオホーツク海の沿岸を通り、ここ猿払まで来た。
今日ついに、日本最北端の地を踏んだ。
今オホーツク海の沿岸にいるというのも、何だか感慨深いものだ。
人間と動物の関係性
湯につかりながら、稚内の青少年科学館で見たタロとジロの物語を思い出す。
今回北海道に来た理由の一つに、人間と動物の関係性について考えてみたかった、ということがある。
北海道では道路にエゾシカが出てきたり、道でヒグマと遭遇したなんていうニュースを見る。
人間と動物との距離が近く、考える材料がたくさんあるのではないかと思ったのだった。
実際、北海道では動物を多く見かけた。
私は昔から釣りを趣味にしていたが、何となく魚がかわいそうになり、あまり釣りをしなくなってしまった。
カヤックに乗っていた時、一匹のイナダがカヤックに付いてきたことがあった。

何をしても逃げないのでしばらく一緒にいたのだが、普段釣りの対象としていた魚にも、当たり前だが自我や性格のようなものがあることに、そのとき気づいたのだ。
それから魚だけでなく、虫や動物についても色々と考えるようになった。
特に家畜など、人間のために命を奪われる動物についてよく考える。
家畜を飼うのは辞めるべきなどと言うつもりはない。
このご時世、畜産を辞めてしまったら、人間は生きていくことができなくなるだろう。
人間のために命を奪われるといえば、虫もかなりの被害にあっているはずだ。
夏に高速道路などを走ると、車の前面が虫の死骸だらけになることがある。
私は北海道に来て、500km以上は運転したと思う。
ここに来るまでに数えきれないほどの虫を轢いてきたはずなのだ。
毎日大量の虫が車に轢かれている。
地球上の生物に、「どれか一つの種族を絶滅させるとしたらどの生物が良いか」とアンケートを取ったところ、人間が選ばれたなんて言うフィクションの話もあったっけか。
ところで、こんなことを考えて活動家になりたいとか、ヴィーガンになりたいとかいうわけではない。
考えて何かの答えがでるわけでもなく、動物が可哀そうだという気持ちに折り合いが付くわけでもないだろう。
それでも考えたかったので、北海道に来た。
ホタテの刺身定食
風呂から上がり、腹の減りが最高潮だった。
近くにあるレストラン風雪へ行く。
猿払といえばホタテ。
ホタテを食べたかったが、刺身にフライ、カレーなど、色々なメニューがある。
ここは王道に刺身定食といこう。
美味い。贅沢。箸が止まらない。
明日の計画
外に出ると雨が降っていた。
大急ぎで車に戻る。
明日もこの調子で雨が降り続けるだろうか。
ガイドブックとにらめっこしながら明日の計画を立てる。
明日は、ひたすらオホーツク海沿岸を走り続け、網走まで行こうと思っている。
紋別に寄りたい場所がいくつかあるので、早朝にここ猿払を出発し、紋別まで一直線に向かおう。
温根湯の辺りにも寄りたい場所があるので、サロマ湖の手前でいったん内地の方に折れる予定だ。
一日の移動距離としては、これまでで一番長いものになるだろう。
オホーツク海沿岸を少し走ってみた感じでは、車通りが少なく、景色が良くてダイナミックで、運転は苦にならなそうな気がする。
明日はどんな景色に出会えるだろうか。