いつもと違うサダルストリート
次の日の朝。
あまり腹が減っていないが、ブルースカイカフェに朝食を取りに行くか。
ブルースカイカフェでは、明日以降の移動時に飲む水を確保しておきたかった。
明日、ゲストハウスを出発し、ハウラー駅に向う予定だった。
ハウラー駅で一晩過ごし、明後日には列車でコルカタを出て、ガヤへと向かうのだ。
ゲストハウスから外に出るのは億劫だ。
外に出ると、客引きが何度も声をかけてくるので面倒くさい。
だが、外に出るときにゲストハウスの従業員たちに挨拶したりしていると、元気が出てくる。
コルカタの雑踏に踏み出す。
薄いオレンジ色の朝陽が、うすく靄がかかった街並みに差し込んでいる。
もう何度も通った、日用品店や生地屋の前を通り、サダルへ。
相も変わらず野良犬たちが丸まって寝ている。
サダルを歩いていると、心なしか、いつもと景色が違って見える。
周りの人たちの顔がはっきり見えるというか、何だろうこれは。
ブルースカイカフェに入る。
ここに来るのもこれが最後かもしれない。
カフェには新しい若者の店員がおり、オーダーを取ったりしていた。
朝飯を食べて飲み水も買い、カフェを出た。
違和感の正体
ゲストハウスに戻っていると、やっぱり違和感。
そうか、今日はまだ一度も声をかけられていないのだ。
いつもだと、サダルでは少し歩くごとに、タクシーやリキシャ、詐欺師たちに声をかけられていた。
それが今日は、皆が打ち合わせたように、誰も声をかけてこない。
今まで客引きたちを無視してきたので、こいつは無理だとあきらめてくれたのかもしれない。
こうなるまでに一週間かかった。
何というか、これでようやく町の一部になったような、通りに馴染めたような気がした。
もっとも彼らからしたら、私はただの外国人観光客であることに変わりはなく、カモでしかないのも変わらないのだろうけれど。
この変化を嬉しく感じつつも、誰も話しかけてこないのは寂しい感じもする。
これは単なるわがままだな。
前に会ったしつこい客引きが言っていたことを思い出す。
「疑ってばかりいると、旅が楽しくなくなるよ」
この言葉を言っていたのが、客引きだったというのが笑いどころなのだけれど、彼の言葉には一抹の真理もある。
大事なことは人を見る目なんだな。
私は特に、現地の人と仲良くなりたいわけではないし、現地の生活について知りたいわけでもない。
けれど、たまには声をかけてきた人と話をしてみても良いかもしれない。
そうしていかないと、人を見る目は養われない。
騙されない程度に、ちょっとずつ人と関わってみるか。
ゲストハウスに戻った。
明日の移動に備え、ブルースカイカフェで買ったペットボトル。
この後、午前中は何事もなくダラダラと過ごした。