社会に出ることへの逃避と株との出会い
このページでは、林輝太郎さんの「株式上達セミナー」という本を紹介する。
株式上達セミナーに書かれていることを実践していけば、株で利益が出せるようになること請け合いである。
だが、この本を読んだ人の中で、書かれていることを実践する人がいったいどれだけいるだろうかと思う。
作業としては難しくないのだが、単調であり、道具の準備も必要である。
そうでなくても本格的な本のため、文体が厳しく、内容も難しく、そして古めかしく感じることがあるだろう。
この本の内容が、現在でも通じるのかと、懐疑的になってしまう人もいるかもしれない。
逆説的だが、今こうして書いたことが、この本が儲けを出す助けになってくれる理由なのだと思う。
かなり長い前置きとなるが、まず、私がこの本に出会うまでのことを書いていこうと思う。
思い返すと、大学生の頃は社会人になるのがとにかく嫌だった。
仕事の辛さについて、身内から聞いたりネット記事で読んだりして、嫌というほど叩き込まれてきたからだ。
今にして思えば、社会人になることを怖がる必要はなかった。
どうしたっていずれ社会人には成らざるをえないし、実際に社会に出てみると、ただ辛いという一言では割り切れないような、大学生までとは質の違う悩みや喜びがあることが分かったからだ。
こういった経験は、何物にも代えがたい。
それに、どんな生き方をしようとも、人間はいずれ年老いてボロボロになって死んでいくのだ。
必要以上に自分を大切にする必要はないし、むしろ自分を守ろうとすることで生きづらくなることも分かった。
それはともかく、大学生のころは、社会人になることを何とか先延ばしにできないかと考え、将来の夢を理由に大学生活を延長したり、大学を出た後は、就職試験を理由に数年間フリーターをしていた。
夢を叶えるためという大義名分を掲げながら、働くことを避けてきたのだ。
だが、現実問題、いつまでもアルバイトだけで生きていくことはできない。
何とかして、生きていくのに充分なお金を稼がなければならない。
できるだけ簡単な方法で、できるだけ人と関わることなく、不労所得を得られるのが理想だ・・・
色々と調べ考えた末、パソコンがあれば稼ぐことのできる、株やFX・暗号資産(仮想通貨)などの金融商品に興味を持ち始めた。
プログラミングの知識があるので、自動取引のプログラムを作って稼ぐことができるかもしれない。
特に仮想通貨は魅力的で、グラフを見るとずっと右肩上がりだし、24時間取引ができる。
さらにレバレッジをかけることで、手持ちの資金の数倍から数百倍もの資金量で取引ができるのだ。
億万長者の夢は見ないが、百万長者ならいけるのではないだろうか。
すぐに仮想通貨の取引方法を調べ、取引所の口座を開設した。
仮想通貨に熱中し資金を失う
仮想通貨の一つ、ビットコインが有名になってきた2016年ごろに取引を始めたのだが、最初のころは順調に利益が出ていた。
それもそのはずで、黙っていても価格が上がっていくのだから、ただ買っていれば当たり前に儲かるのだ。
ところで、仮想通貨の取引には「買い」と「売り」がある。
この「買い」と「売り」は、買ってから売るという普通の売買のことを指すこともあるが、仮想通貨やFX(そして株取引)では、少し違う意味に使われることもある。
信用取引などを使うと、価格が上がるか下がるかのどちらかに、「賭ける」ような取引ができるのだ。
仮想通貨の価格が上がると思ったら、「買い」のポジションを持ち、下がると思えば「売り」のポジションを持てば良い。
売りのポジションは、仮想通貨を買っていなくても持つことができる。
売りのポジションを持っていて、仮想通貨の値段が下がれば、利益を得ることができるのだ。
ビットコインの価格が推移するグラフを見ていると、ずっと価格が上がり続けるわけではなく、上がっては下がってを繰り返しつつ、長い期間で見ると右肩上がりになっていた。
そこで思ったのが、「買い」ポジションを持ちつつ、価格が下がると思ったときに「売り」のポジションも持ってみてはどうかということだ。
当時はフリーターだったため、とにかく資金に乏しかった。
売ったり買ったりすることで、ただ買うよりも、大きな利益を生み出せると考えたのだ。
さて、そのようにして取引をしていったところ、順調に利益は増えていった。
これは取引の仕方が上手かったというよりも、ただ仮想通貨の値段が右肩上がりに上がっていたからに過ぎない。
そして、忘れもしない、2017年の12月。
まだビットコインの価格は上がり続けていた。
私は、価格がこのまま際限なく上がり続けると確信しながら、売ったり買ったりを繰り返し続けていた。
あるとき、丁度ポジションをゼロにしたところ、ビットコインの価格が急激に上がり始めた。
そこでまたビットコインを買い、さらに何度か買い増し、最終的に口座に預けていた全額分、ビットコインを購入した。
ビットコインの価格はついに200万円を突破し、利益もうなぎ上りになっていた。
私は欲に目がくらんで、ビットコインの値上がりに熱中し、熱狂していた。
このときの経験で、ギャンブルにはまる人の気持ちがよく分かった。
しばらくパソコンの画面にかじりついていたが、値動きを見ているのに疲れ、少し休憩しようと風呂に入った。
風呂から上がってみると、パソコンの表示がおかしい。
ビットコインの買いポジションを持っていたはずなのだが、ポジションがなくなっており、資金も1/5に減ってしまっていた。
このときは何が起きたのか分からず、一瞬頭が真っ白になったのだが、値動きを見て分かった。
ビットコインの価格が一気に下がり、持っていたポジションがロスカットされてしまったのだ。
ロスカットについて説明しておくと、レバレッジをかけた取引(信用取引のようなもの)では、実資金量の数倍~数千倍の量の仮想通貨を購入することができる。
その分、利益が出たときは儲けが大きくなるし、損失が出るとその量も多くなる。
場合によっては、資金量以上の損失が出て、資金がマイナスになってしまうこともある。
それを防ぐため、取引の仲介業者が、資金量がある水準を下回ったところで、自動的にポジションを解除するのがロスカットだ。
例えばロスカットの基準が20%だとしたならば、ビットコインの価格が下がって損が出てしまい、資金が元々の20%を切った段階で、自動的にポジションを解除されてしまう。
そんなわけで、ポジションをロスカットされ、大きな損失を出してしまったのだった。
だが、ビットコインに熱狂していた私は、今回は一時的な下げであり、まだビットコインは上がり続けると思い込んでいた。
そして、残った資金でビットコインを買い続けてしまったのだ。
今にして思えば、すっかり我利我利亡者になっていたのだと思う。
その後、ビットコインの価格は100万円を切るまで下がり続け、買ってはロスカットを繰り返した末、手持ちの資金はほとんどゼロになってしまった。。。
この話を書いている時、小さいころに、バブルの崩壊とは何かと親に聞いたことを思い出した。
そのときの答えはよく理解できなかったのだが、こうして体験してみると、バブルというものが身をもって理解できた。
仮想通貨でバブルの崩壊を体験できたことは、負け惜しみではなく得難い体験となった。
おかげでこれ以降、ひどい損失を出さずに済んで来られた。
林輝太郎さんの「株式上達セミナー」を読んだ今にして思えば、仮想通貨の取引を始めたことは、失敗する要因をいくつも抱えていた。
一言で言えば、この当時の、取引に対する考え方・心構えは未熟で幼稚だった。
まず、仮想通貨という得体の知れないものに、虎の子のお金を賭けていることが一番の失敗だ。
取引の仕方や資金の管理も、帳面を付けたりせず、てきとうにやっていたので、いずれ破綻が来るのは目に見えていた。
刀折れ矢尽き果て
このときはまだフリーターだったので、取引所に入れていた資金はそれほど多くなかった。
だが、一時期は利益と合わせて結構な資金があったというのに、それをすっからかんにしてしまったことがショックだった。
あれだけのお金があれば、色々なことができただろう。
仮想通貨を諦められずにいた私は、もっと大きいレバレッジで取引できる取引所を探し始めた。
海外の取引所で、レバレッジ100倍での取引に挑んだりしたものの、すぐに資金を失ってしまった。
ビットコイン以外の仮想通貨を買ったりもしたが、これも徐々に価格が下がってしまい、儲けることはできなかった。
記憶が正しければ、正社員として働き始めたのはこのころだったと思う。
それでもまだ、働かないで暮らすことを夢見ていた私は、毎月給料から数万円ずつ仮想通貨取引所の口座に入れ、取引をしては溶かす日々を送っていた。
それから、確実に儲かる良い儲け方がないものかと、他の金融商品にも目を向け始めた。
仮想通貨と同じように、取引できる時間が長い商品。
それでいて、(仮想通貨よりは)安定している、為替を扱うFXならどうだろうかと思い、少額でFXを開始できる海外の取引所で口座を開設した。
だがこれも、少額をつぎ込んでは溶かし、またつぎ込んでは溶かしを繰り返し、本をたくさん読んで色々なことを試してみたが、良い結果は得られなかった。
私が使っていた取引所は、メタトレーダーという、自動売買が可能な取引プラットフォームを使えるところだった。
だが、プログラミングの知識を活かして色々と試してみたものの、利益の出るシステムを作ることもできなかった。
次に目を付けたのは株だった。
仮想通貨やFXと違い、株はある程度の資金量がないと儲けられないと思っていたが、調べてみると、数万円あれば購入できるような株も結構ある。
当時は米国株が人気で、これも右肩上がりに上がり続けていた。
調べていくつか買ってみたが、結局上手くいかず、買った株は上場廃止になったりして売れなくなってしまった。
そしてまた色々と調べた末、今度は株のシステムトレードに手を出してみた。
システムトレードとは、あらかじめルールを決めておき、必ずそのルールにしたがって売買するというものだ。
私が試してみたのは、前日に10%以上値下がりした株を、次の日の寄り付きに買い、さらに次の日の寄り付きで売るというものだった。
しばらく続けてみたが、やはりはかばかしい成果は得られず、損の方が大きくなってしまった。
パソコンでシミュレーションなどもしてみたが、銘柄の選定の問題なのか、あまり良い結果が得られそうになかった。
様々に試行錯誤をしてみたが、必ず利益が出せるような方法は見つからず、ただ徒に資金を減らしただけとなってしまった。
このころ、痛切に不安を感じていたことを覚えている。
このままシステムトレードを続けていけば、安定して利益を出すことができるのだろうか。
本当に利益の出せるシステムは存在するのだろうか。
そもそも、株などの金融商品で、安定して利益を出していくことはできるのだろうか。
そうして悩みながら、何か取引の核になるような物、これに従えば必ず利益が出るというような物はないだろうかと切望した。
悩みに悩んで探し回り、ようやく出会った「株式上達セミナー」を初めとする林輝太郎さんの本が、その悩みを氷解してくれたのだった。
林輝太郎さんの「株式上達セミナー」
思えば、私は小さいころから古いもの・本格的なものが好きだった。
平成生まれなのだが、昭和の人間と呼ばれるぐらい古臭い考え方を好んでいたし、何かを選択するときは、必ず面倒な方を選ぶようにしていた。
それならば何故、社会人になることを躊躇っていたのかと言われそうだが、人間そんなものだということで許してもらいたい。
そのような考え方をしていたのだから、なぜもっと早く「株式上達セミナー」にたどり着かなかったのだろうかと思う。
株の本の中には、「~円稼いだ必勝法」とか「儲かる株の選び方」といったようなタイトルの、簡単に儲ける方法を教えてくれそうな本が多いが、こういった本は十中八九役に立たないと思う。
本当に役立つ本は、いつの時代でも、どんな分野でも、苦労を積み重ねた人が書いた、本格的な本だけである。
本の内容が古くても、それを適用する物事の本質は、そう変わらない。
ずっと残っている本というのは、著者が苦心して本質を詳らかにし、その体験をもとに書いた本だから、いつの時代でも通用するのだ。
林輝太郎さんの「株式上達セミナー」に出会ったのは、何かのネットページで紹介されていたのを見たことがきっかけだった。
そのページを見てすぐ、本屋に買い求めに行った。
本屋の株コーナーに行ってみると、きらびやかな本が並んでいるところの下に、いぶし銀のような雰囲気を放つ、林輝太郎さんのコーナーがあった。
並んでいる本も、「株式上達セミナー」から「相場師スクーリング」「売りのテクニック」「ツナギ売買の実践」など、他の本とは一線を画すようなタイトルである。
早速いくつか購入して読んでみたが、確かに、他の本とは書いてあることが別次元に違う。
変な例えだが、分厚い地層のような本なのである。
著者の経験(株だけではなく人生経験も)が本の中に閉じこもっており、ページをめくると、ずっしりとした地層模様の一部が見え隠れする。
文面は厳しいのだが、読んでいて苦にならないのは、筆者が真剣に読む人のことを想って書いた本だからなのだと思う。
「株式上達セミナー」の中には、こういう道具を用意して、こういうやり方をすれば儲かるという実践的な内容が書かれている。
だが、それと同時に大切なのが、考え方の部分である。
この本が教えてくれたことの一つは、私がこれまで抱いていた株取引に関する考え方が、根本的に間違っていたということだ。
本の中では、ミーハーなやり方で流行りの株に飛びつくような取引をしていると、いつまで経っても儲けることはできないということが、実例を交えて繰り返される。
私はこの本を買ってから、本の内容の通りに売買を始めてみた。
だが、書いてある作業の無味乾燥さや、本に書いてあることを信じ切ることができなかったこと、一気に儲けを出したいという邪な思いから、何度か本を投げ出してしまったことがある。
そうして、システムトレードの方法に戻ったりしたのだが、結局損失ばかりだったので、再び林輝太郎さんの本に戻ってきた。
今では必ず、林輝太郎さんの本に書いてあるやり方に従って売買し、それ以外のことはしないようにしている。
私のように、株に対して間違った考え方が身についていた場合、本に書いてあることを信じ切り、批評的な観点を一切捨てて取り組まなければならないと思う。
本の内容が自身に浸透するまで読みこなし、株に対する考え方を矯正することから始めていかなければならない。
株に限らず、正しくない方法は魅力的なことが多い。努力が必要なかったり、楽に成果が出るように見える。
正しい方法を習ったとしても、誘惑に負けて道を踏み外してしまうことがあるが、また元の正しい道に戻りながら、少しずつ考えを正していくしかない。
少しだけ、本に書いてある取引の方法について言及しようと思うが、本の中で「変動感覚」という言葉が出てくる。
ある方法で値動きの感覚を養い、その感覚に従って売買するというのがポイントなのだ。
こう書くと、感覚に従った売買で儲けられるのか、システムトレードなどの方が確実ではないかと思う方もいるかもしれないが、車の運転を思い出してほしい。
車の運転をしているときに、「後5cm左に行ったらぶつかるから、左に行くのはもう2cmまでにして、右側は10cmの余白を残して通り抜けよう」などと細かく考える人はいないだろう。
そこまで考えなくても、車を運転している人は、感覚を頼りに事故を起こさず運転できるし、いきなり自転車が飛び出してきたというような突発的な事態には、むしろシステムは通用せず、感覚で対応するしかない。
人が介入する相場では、突発的な事態はつきものだし、むしろ毎日の値動きが突発的だと言っても良いだろう。
感覚を基準にしなければ、値動きに対応していくことはできないのだと思う。
ちなみに、私は「株式上達セミナー」の通りに売買してからというもの、一回ごとの売買ではたまに損を出すことはあるが、今のところ年間では必ず黒字になっており、仮想通貨やFXで損した分はとっくに取り返した。
個人投資家の90%が赤字になっているという話を聞いたことがあるが、これが本当ならば、私は個人投資家の上位10%に入っているということになる。
資金量の数十%儲けることができた年もあり、いずれは無理なく売買しながらも、年間で資金量の100%以上の利益を出してみたいと思っている。
林輝太郎さんの本を読んで良かったと思うことは、株で儲けられるようになったことだけではない。
それはむしろ副次的なもので、本を通して伝わってくる、仕事に対する姿勢やプロとしての意識や考え方を学べたことの方が、自分自身の人生に対し、より良い影響となっているように思う。
一人の人間として、この本に大人にしてもらったような気分である。
「株式上達セミナー」は座右の書として、ことあるごとに読み込む本の一つとなった。
私はコレクター気質なので、気に入った著者の本は全てほしくなってしまう。
林輝太郎さんの本に感銘を受けてから、本屋やAmazonに売っている林輝太郎さんの著書で、手に入るものは全て購入した。
これらは私の宝物である。