男鹿半島を抜け、秋田県能代市街へ
男鹿半島の寒風山を下り、旅路をさらに北へと進める。
しばらく海岸線を走り、能代(のしろ)市街へと入った。
車中泊や空き時間の暇つぶしのため、まずは市内のブックオフへ立ち寄り、本を数冊調達した。
少し走ると、昭和の趣が残る良い雰囲気の商店街を見つけた。

散策しようと思った矢先、パラパラと雨が降り出してきたため、車へ戻る。
道沿いにイオンを見つけたので、食料の買い出しも兼ねて寄っていくことにした。

惣菜コーナーで、今日の昼食兼夕食となる弁当を購入。
男鹿半島のオガーレで買ったイチジクもあるので、なかなかのご馳走になりそうだ。

能代から青森県境へ。温泉と産直の「ハタハタ館」
買い出しを済ませ、能代を出発してさらに北を目指す。
途中、海沿いにある「ハタハタ館」という施設に立ち寄った。

ここは日帰り温泉施設と地元の産直店が一体となった便利な場所だ。
まだ入浴するには時間が早かったため温泉は見送ったが、土産物屋をじっくりと見て回った。
ご当地の特産品を眺めるのは、道の駅巡りの醍醐味である。
さて、地図を見るとこの辺りから東の山側へ入った地域が、世界遺産の「白神山地」にあたるはずだ。
生命を育むブナの森、白神山地への憧憬
白神山地は、秋田県から青森県にまたがる約13万ヘクタールもの広大な山岳地帯である。
人の手が一切入っていない広大なブナの原生林が残っており、多種多様な動植物が生息する貴重な生態系が評価され、世界自然遺産に登録されている。
私はこの「ブナ」の木が非常に好きだ。山登りの最中、立派なブナの木を見かけるたびに足を止め、しばらくその美しい樹皮や葉の重なりを眺めてしまう。
ブナは幹に水分を多く含み、乾燥すると狂いが出やすいため木材としての加工が難しい。
そのため、かつては「役に立たない木」として容赦なく伐採されてきた悲しい歴史を持つ。
しかし研究が進むにつれ、ブナの森が持つ圧倒的な保水力や、落ち葉が豊かな土壌を作り出すメカニズムが解明され、森林の生態系維持において極めて重要な役割を果たしていることが分かってきた。
現在では、その価値が見直され、全国各地でブナ林を保護する動きが活発になっている。

ブナの美しい樹姿や詳細な生態については、私の好きなサイトである森と水の郷あきたのページに詳しく解説されている。
かつて源流釣りに熱中していたころ、このページを何度も読み返し、山菜やキノコが育つ環境について熱心に勉強したものだ。
また、白神山地そのものについては、渓流釣りの第一人者である瀬畑雄三さんの著書を読んで以来、ずっと強い憧れを抱いていた。
今回、秋の東北旅行を思い立ったときから、白神山地は絶対に外せない目的地の一つだったのだ。
事前の調べによると、白神山地にはいくつかの散策ルートがあるものの、台風や大雨の影響でアクセス道路が通行止めになっている箇所が多いようだ。
海岸線から近い「十二湖」周辺であれば問題なく散策できそうなので、そちらへ向かってみようと思う。
当初は今日のうちに十二湖を散策する予定だったが、外は激しい雨が降ったり止んだりを繰り返している。
足元が悪い中を歩くのは危険と判断し、明日の朝一番で向かうことに予定を変更した。
奇岩が連なる海岸線と、不気味な「象岩」
ハタハタ館を出発し、青森県を目指してさらに北上を続ける。
この辺りの日本海沿岸は、荒波に削られた大小の奇岩が立ち並び、実に風光明媚なドライブルートである。
思わず車を停め、カメラのシャッターを切った。


ついに青森県へと突入したが、標高の低い海岸周辺の木々はまだ青々としており、紅葉には早かったようだ。

国道から少し逸れ、海へと続く細い道に入ってみる。
行き止まり付近で、奇妙な形をした大岩を発見した。「象岩(ぞういわ)」という名がついているらしい。

どんよりとした曇り空も相まって、少し不気味なオーラを放っている。
真ん中からだらりと垂れ下がった岩の柱が、確かに象の長い鼻のように見えなくもない。自然の造形美には驚かされるばかりだ。

リフレッシュ拠点「アオーネ白神十二湖」へ
一日中車を走らせて疲れたため、そろそろ風呂に入りたくなった。
十二湖のすぐ近くにある宿泊・観光施設「アオーネ白神十二湖」へ向かう。
ここはコテージなどがある宿泊施設だが、宿泊客でなくとも日帰り入浴を利用できるありがたい場所だ。
受付で料金を支払い、大浴場へ。
天然温泉ではないそうだが、白神山地麓の清らかな地下水をくみ上げて沸かしているとのこと。
手足を伸ばしてゆっくりと湯船につかり、一日の疲労を洗い流した。
風呂上がりに売店を覗き、夜食用の菓子を購入した。

残しておいたイチジクとともに、夜中にお腹が減ったら食べることにしよう。
日本海に沈む、感動の夕日
施設を出るころには、雨が本格的に降り出していた。
明日の天気が気がかりである。

と諦めかけていたその時、日が沈む直前になって、嘘のようにピタッと雨が止み、厚い雲の隙間から強烈な光が差し込んできた。

見事な夕焼けである。
旅先で見る美しい夕日は、なぜこれほどまでに心を打つのだろう。

そういえば、6月に北海道を一周したときは15日間もかけて回ったというのに、室蘭の地球岬でしか夕日を眺めなかった気がする。

今思えば、随分ともったいないことをしたものだ。
これからは、旅先の夕暮れ時をもっと大切にしようと心に決めた。

太陽がゆっくりと、しかし確実に日本海の水平線へと沈んでいく。


すぐに夜の帳が降りるだろう。
明日はいよいよ十二湖の散策だ。胸を高鳴らせながら、二日目の夜を迎えた。