放射線とは何か




< 地球がブラックホールになる半径 放射線の通った跡を見る「霧箱」 >

閑話に戻る



目次






放射線を怖がるということ


 このページでは、あくまで客観的に、放射線とは何かを書いていこうと思います。図を使い、できるだけ分かりやすく解説します。




 このページをご覧の方は、放射線に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。放射線は怖い物、得体のしれない物という感じ方をしている方が多いのではないでしょうか。

 放射線が怖い物というのは私も同感です。私は放射線がどのようなものか、一通り知っていますが、それでも怖いと感じます。




 特に日本は、大戦時に原爆を落とされたり、福島原発の事故があったりと、放射線関連の大きな出来事がいくつかありました。このように放射線の怖さを見せつけられているということもあり、放射線に恐怖感を抱く人が多いのではないでしょうか。




 放射線は怖い物、その見方は真っ当だと思います。しかし、放射線と言う単語に過敏になりすぎてもいけません。放射線についてしっかりと理解し、適切に怖がることが重要です。

 さもないと、あられもない風評被害が起きてしまったり、放射線がストレスの原因になって精神的、身体的に不調が表れたりと、本来起こる必要のない二次被害が起きてしまいます。




 実際に起きた二次被害の中でも、あってはならないと思った出来事ことは、被災地から避難した子供たちへの、放射線を理由にしたいじめです。

 望んだわけでもないのに、住み慣れた場所を離れなければならないというのは、大きな心痛を感じる出来事です。そんな状況の中で、さらにいじめられるというのは、どれほどの苦痛と絶望を感じるか、私には測り知れません。さらに、そのことに学校の先生が加担していたというのはとても信じられないことです。このような事は、あってはならない事だと思います。




 話が逸れましたが、本来なら起こる必要のない被害を少しでもなくすため、放射線についての正しい知識を仕入れることが重要です。原発の事故を通して、放射線は遠い世界の物事ではないと、多くの方が認識したと思います。もはや、放射線について知らないでは済まされません。

 何かあった時に自身や身の周りの人を守れるのは、正しい知識に基づいた行動です。放射線についての理解を深め、正しく怖がりましょう。





放射線クイズ


 今から三つの○×クイズを出します。以下の文が正しいか間違いか、お考えください。答えは下にあります。

  1. 放射線は感染する
  2. 私たちは日常的に放射線を浴びている
  3. 放射線は1種類だ














放射線クイズの答え


  1. 放射線は感染する   ×
  2.  私が教えている子に「放射線を取り扱ったことがある」と言ったとき、「放射線が感染しそう」と言われたことがあります。このとき、「放射線について知らなければこんな認識だろうなあ」と思いました。放射線は病気ではないので、感染しません

  3. 私たちは日常的に放射線を浴びている   ○
  4.  ちょっとショックかもしれませんが、正しいです。私たちは普段から、色々な放射線に曝されています。

     例えば、様々な食物や肥料にもよく含まれているカリウムについて。カリウムの原子には色々種類があり、中には放射線を出すものがあります。放射線を出すカリウム原子は、カリウムの中に一定の割合で含まれています。なので、食物や肥料の中にも放射線を出すカリウムが含まれています。そのカリウムから出た放射線を、私たちは日常的に浴びています。




     この特殊なカリウムは、放射線を出す能力を持っています。この能力を放射能と呼びます。また、放射能を持つ物質を含む物質を、放射性物質と呼びます。




     ここに重要なことを書いておきます。放射線を出すのは放射性物質です。放射線を浴びた人が放射線を出すことはありません。

     また、放射能を持つ物質が体や服などに付くと、その放射性物質から継続的に、人体や周りの物質は放射線を浴び続けてしまいます。ただし、除染作業を受ければ、放射性物質のほとんどを取り除くことができます。

     放射線が移る、放射能が移るといったことを理由にしたいじめがありました。これはまったく的外れな話です。先生や親などの大人たちが、放射線や放射能は移らないことを教え、いじめをやめさせなければいけません。




     身近にある放射線はカリウムからの物だけではありません。宇宙からは宇宙線と呼ばれる放射線が降り注いでいます。これは、家の屋根などではほとんど防げませんし、毎秒手のひらに一個ぐらいの割合で降ってきているので、私たちの体は常にこの放射線に曝され続けています。




     このように、私たちは自然界からの放射線(自然放射線)を日常的に浴びています。それでも目立った影響がないのは、それらの放射線が、たいして人体に影響を及ぼさないからです。

  5. 放射線は1種類だ   ×
  6.  放射線にはいろいろな種類があります。その種類によって、人体への有害度や透過力なども違います。このことは後で解説します。





そもそも放射線とは何か


 さて、そもそも放射線とは何でしょうか。高校の物理の教科書†1を見てみると、放射線とは、高エネルギーの粒子や電磁波と書かれています。

†1 :数研出版 物理

 放射線は前に述べた通り、一種類ではありません。実体のある粒子や、光に代表される電磁波、これらの全く違う様態の物たちが、ひとくくりに放射線と呼ばれています。

 ここで、高エネルギーと言う単語が出てきました。いくつか文献を当たってみましたが、これは、どこからどこまでが高エネルギーだなどと、具体的な数値が決まっているわけではないようです。レントゲンに使われるX線も放射線に入るのかどうか、どっちつかずだったりして、放射線の定義は結構あいまいなようです。




 さて、この高エネルギーの粒子や電磁波はどこから来るのでしょうか。答えは原子の中からです。原子について復習してみましょう。

 中学校の理科で、物質は原子からできていると習います。そして、その原子は原子核と、それを取り巻く電子からできています。さらに、原子核は陽子中性子から成っています。

原子の模式図

 上の図は、ヘリウム(He)原子の模式図です。ヘリウム原子は電子陽子中性子をそれぞれ2つずつ持っています。

 電子は負の電気を帯び、陽子は正の電気を帯びています。正の電気と負の電気はそれぞれ引かれあいます。電子陽子に引かれ、原子にとどまっているのです。そして中性子は電気を持っていません。




 なお、この図は縮尺などがテキトウです。本当は、陽子中性子の大きさに比べ、電子の大きさははるかに小さいです。また、電子が周っている軌道の半径は、陽子中性子の大きさに比べ、実際はとても大きいです。正確な縮尺で図を作ると、分かりにくい図になってしまうため、縮尺を崩して描きました。色もテキトウに塗っています。




 ここまでで原子についての説明は終わりです。さて、放射線の説明に移りましょう。主な放射線は、α線,β線,γ線の3種類で、これらは原子核から出てきます。それぞれの特徴などは次の項目で解説することにして、なぜ原子核から放射線が出るのか、少し説明しておきましょう。

 自然は不安定な状態を嫌います。不安定な状態というのは、エネルギーの高い状態です。不安定でエネルギーの高い原子核は、安定でエネルギーの低い状態になろうとします。そこで、崩壊してその余分なエネルギーを放射線として放出し、安定な状態になります。

放射線の放射



 ところで、前に放射線クイズを出しました。その2番目の解答で、放射線を出すカリウム原子について触れました。私たちの周りに存在するカリウム原子の93.2581% †1は、電子19コ、陽子19コ、中性子20コから成り立っています。このカリウム原子(カリウム39) †2は安定で、放射線を出しません。

†1 :理科年表の平成26年版より。
†2 :39は陽子と中性子の数を足した数(原子量)です。

 ところが、カリウム原子には、電子19コ、陽子19コ、中性子21コで成り立っている物(カリウム40)もあります。さきほどのカリウム39より、中性子が1コ多くなっています。

 ちなみに、このカリウム39とカリウム40の関係を、同位体と言うのでした。特に、カリウム39などの安定な原子に対し、カリウム40などの放射能を持つ同位体は、放射性同位体と呼ばれます。

 このカリウム40は、カリウム原子の0.0117% †3を占めています。つまり、カリウム原子が10000コあれば、その内の約1コがこのカリウム40だということです。

†3 :理科年表の平成26年版より。

 カリウム39は安定なのですが、カリウム40は不安定です。β崩壊により放射線であるβ線を出し、安定なカルシウム40になります。





α線とは何か


 これから、先ほど述べたα線、β線、γ線について詳しく見てみましょう。

 まずα線というのは、一言で言えばヘリウムの原子核です。前にヘリウム原子の図をお見せしました。もう一度載せておきましょう。

ヘリウム原子の図

 ヘリウムの原子核は、上の図から電子を取った物、つまり陽子2コと中性子2コのかたまりです。不安定な原子核が崩壊(α崩壊)し、陽子2コ中性子2コのまとまりが飛び出したものが、α線です。




 α線は陽子2コを持っているため、正の電気を2コ持っていることになります。主に、この2つの電気が、物質や人体中の原子などに影響を与えます。

 α線は、他のβ,γ線と比較して物質に与える影響が強い放射線です。ですが、物質に与える影響が強いということは、α線が物質から受ける影響も強いということでもあります。なので、α線は物質を通過する能力が弱く、紙一枚程度で止まってしまいます。




 私たちの身近にあるα線と言えば、トリウムからのα線です。昔使われていたキャンプ用のランタンには、トリウムが使われていました。このトリウムは放射能を持つ物質で、α線を出します。最近のランタンにはトリウムが使われていないそうです。





β線とは何か


 次に、β線について説明します。原子によっては、原子核中の中性子が不安定なことがあります。その不安定な中性子はあるとき、陽子,電子,ニュートリノの3つに崩壊します。この崩壊をβ崩壊と呼び、この時に放出された電子が、β線と呼ばれます。

β崩壊の図

 この図は、前と同じで縮尺や色などがテキトウです。




 β崩壊でできた陽子は原子核中に留まります。なのでβ崩壊は、原子核の中の中性子が1コ減り、陽子が1コ増える反応だとも言えるでしょう。

 また、電子の他に放出されるニュートリノと言うのは、周りの物質にほとんど影響を与えない粒子です。宇宙から大量に降り注いでいますが、ほとんどが地球を素通りして行くそうです。そんな幽霊のような粒子ですが、カミオカンデと言う超巨大な検出器により、ようやく検出されたという歴史があります。




 話をβ線に戻します。β線は電子1コなので、負の電気を1コ持っています。α線と同じく、この電気が物質や人体中の原子に影響を与えます。

 β線は、α線よりも物体に与える影響が弱いです。その分、α線よりも物質を通過する能力が強くなります。α線は紙一枚で止まりますが、β線は、1cmほどの厚さのプラスチック板でないと止まりません。




 β線と言えば、福島の原発事故が思い浮かびます。福島の原発事故では、ヨウ素131やセシウム134、セシウム137などの放射性元素が何度も話題になりました。これらは不安定な放射性核種で、β線を出し、それから後述するγ線を出して安定な核種に近づいていきます。




 ところで、なぜヨウ素やセシウムが話題になったのか、少し触れておきましょう。原子力発電では、ウラン235が分裂した時に出るエネルギーを発電に利用します。ウラン235は分裂すると、確率†1によって様々な核種に分裂します。

†1 :この確率を収率と言います。

 ウラン235が分裂した時、放射性のヨウ素やセシウムに分裂する確率は比較的高いです。なので、原発事故の際、他の元素に比べてヨウ素やセシウムが多く飛散しました。このことが、メディアでヨウ素やセシウムが大きく取り上げられた一因です。

 他にも、ヨウ素は甲状腺に溜まりやすく、セシウムは水に溶けやすいという性質を持っています。なので、どちらも人体に留まりやすく、他の放射性核種よりも人体への影響が大きくなりやすいということも、何度も話題に上った理由だと思います。





γ線とは何か


 α線はヘリウムの原子核で、β線は電子でした。どちらも、実体のある粒子です†1。ところが、γ線というのは粒子ではなく、光などと同じような電磁波の一種です。

†1 :量子力学を勉強された方は、この表現は変だと思われるかもしれません。イメージしやすくするためにこういう表現にしました。ご了承ください。

 また、α崩壊やβ崩壊は、原子核中の陽子中性子の数が変化する崩壊でした。ところが、γ崩壊では陽子中性子の数が変化しません。そういった点では、γ崩壊はα,β崩壊と比べて異質な崩壊だと言えるでしょう。




 では、なぜ原子核から電磁波が出るのかを説明しましょう。と言いたいところですが、その前に、電子が出す光、X線について説明します。

 γ線とX線には共通点があります。X線について説明した後、γ線との共通点を浚いながらγ線について説明します。




 電子は原子核の周りを周っていますが、高校の化学で、電子の周る軌道はいくつもあると習います。

電子軌道の模式図

 その軌道は、原子核から近い順にK殻,L殻,M殻,N殻,・・・と名付けられています。それぞれの軌道には、決められた数の電子しか入ることができません。例えばK殻には、電子は2コしか入れません。

 基本的に、電子は原子核に近い軌道から入っていきます。最初にK殻が満たされ、次はL殻が満たされ、次はM殻・・・という風に電子が入っていきます。

 電子はその状態で安定しているのですが、外からの影響により、殻の内側の電子が弾き飛ばされることがあります。

X線の発生機構

 そうすると、殻の内側に空きができてしまいます。電子はできるだけ内側に集まっていた方が安定するので、外側の電子が内側の軌道に入ってきます。

 エネルギーが高い外側から、エネルギーが低い内側に落ちるとき、電子は余分なエネルギーを電磁波として放出します。この電磁波がX線です。




 さて、前置きが長くなりましたが、γ線の説明をしましょう。実は、電子だけでなく、原子核の中の陽子中性子も、軌道の上に存在しています。その陽子中性子が高い軌道から低い軌道に落ちるとき、電子と同様に電磁波を出します。この電磁波がγ線です。




 γ線もX線も電磁波であることは変わりません。γ線とX線の違いは、原子核から出るか電子から出るかという違いです。また、基本的にγ線はX線よりもエネルギーが高くなります。




 γ線は電磁波だけあって、α線やβ線よりもはるかに透過力が高いです。鉛のブロックなどを使わないと、遮蔽できません。ただ、透過力が高いから危険かと言うと、そう単純に危険度は決められません。

 α線やβ線が物質を通り抜けるときは、これらの線が持つ電気が、周りの原子に影響を与えながら通り抜けます。

 一方、γ線が物質を通り抜けるときは、γ線は周りの原子に影響を与えずに進んで行きます。そして、γ線が原子に当たるなどすると、電子が飛び出します。その電子が周りの原子に影響を与える、というメカニズムで物質に影響を及ぼします。

 このように、透過力や物質に影響を与える方法が違うので、どの放射線が一番危険かというのは一概に決められません。




 ところで、β線の項目で、ヨウ素やセシウムの話をしました。放射性ヨウ素やセシウムは、β崩壊を起こし、安定な状態になろうとします。ところが、β崩壊だけでは余分なエネルギーを放出しきれない事があります。

 そのような場合、陽子中性子がエネルギーの高い軌道にいます。その高い軌道の陽子中性子が、安定になろうとしてγ線を放出し、低い軌道に移ります。α崩壊の後にも、γ崩壊が起こることがあります。このように、α崩壊,β崩壊とγ崩壊はセットになっていることが多いです。





放射線についてのまとめ


 これまでに見てきたように、放射線の出方は結構複雑で、物質や人体への影響の与え方も複雑です。どの放射線が危険か、どれだけ浴びれば危険なのかなど、一言で言えるようなものではありません。

 それらは放射線の種類によって違いますし、同じ種類の放射線でもエネルギーが大きいほど危険です。こんなことを書くと、結局分からないことだらけじゃないか、という声が聞こえそうですが、そうではありません。

 これまで放射線について解説してきました。このページを読んでくださった方は、もう放射線についてしっかりとした知識を持っています。放射線について知らなかった時とは違います。

 放射線が怖いと思っても、放射線について知っているかいないかで、怖がり方の質が変わってきます。もう放射線は得体の知れないものではありません。β線やγ線という単語が出てきても、「ああ、あれね」と言いながら怖がることができます。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花。正体を知れば、過剰に怖がることがなくなります。何事も、正しい知識を持ち、過不足なく接さなければいけません。





< 地球がブラックホールになる半径 放射線の通った跡を見る「霧箱」 >


閑話に戻る
ホームページのTOPに戻る